【小説版】入学式当日「通学路」 花と恋は舞咲う。【第1話】

本編

4月10日水曜日7時50分

 目を覚ました俺は身支度を済ませ、学校に向かうために玄関のドアを開けた。
 まだ肌寒さを感じる外気の中に微かに花の匂いが緊張を和らげてくれる。

 アパートを出ると新たな学校生活に胸を躍らせる若者たちを祝福するかのように空は晴れ晴れとしていた。
 この街に来て半月、見慣れた服装の学生たちの中に混じって今日から同じ制服で俺も登校する。想像ではなく確かな実感に嬉しさが込み上げてくる。
 

 制服の襟を整えながら、通学路を歩いていると、前方で何やら賑やかな様子が目に入った。
 多くの学生たちが集まり、それぞれ入学式の話題や期待を語り合っているようだ。俺もその一部になるのだと思うと、自然と足取りが軽くなる。

 ふと、少し歩くペースを上げた瞬間、突然右半身に鈍痛にも似た衝撃を受けた。

 一瞬で視界の形式がアスファルト一色に変わった事に戸惑うも、誰かにぶつかったと理解すると自然と平静さを取り戻せた。

「痛ったぁ~。ちょっと、どこ見て歩いてんのよ!」

 見上げると、ショートカットのオレンジ色の髪が目に飛び込んできた。ゼリー飲料のパックを手にした少女が、苛立った表情でこちらを見下ろしている。

「どっちかって言うと、そっちが前を見てなかったんじゃないか?」

「何よ!? あぁ~もういいや!私、急いでるから!アンタに構ってる暇は無いのよ!じゃあねッ!」

 その少女は、言葉を投げ捨てるように言い放つと、ゼリー飲料を片手にその場から去っていった。
どうやら彼女もアイリス学園の生徒らしい。制服が同じだった。
理不尽なまでの一方的な言い分を口にして走り去った彼女の後姿に苛立ちを感じ、愚痴を零す。

「まったく……なんなんだよ」

 起き上がろうとしたその時、優しい声が耳に届く。

「だ、大丈夫ですか……?凄い勢いでぶつかっていましたけど……」

 振り返ると、眼鏡をかけた少女が少し戸惑いながらこちらを心配そうに見つめていた。

「ありがとう……えっと?」

「私は|奈々星 澄玲《ななほし すみれ》と言います。お怪我はありませんか?」

「あぁ、大丈夫みたいだ。まったく、初日から散々だよ」

 差し伸べられた手を借りながら起き上がる。

「初日って事は、あなたも新入生って事ですよね?」

「そうだけど、君も?あぁそうだった。俺は、|染前 望蕾《そめまえ みらい》。よろしく」

「はい、よろしくお願いします♪」

 改めて自己紹介をした俺に彼女――奈々星さんは軽い会釈と一緒に返事をしてくれた。さっきの女子とは大違いで礼儀作法がしっかりしてる子だな。

「そのもしよければ、一緒に登校しない?一人だとちょっと心細くてさ……」

「え?良いんですか?実は私も緊張してまして……」

「そ、その……私でよければ!」

「ありがとう、助かるよ。よし、じゃあまずは自己紹介の続きでもしながら行こうか?」

「はい!」

 俺たちは軽く会話しながら、共に学園へ向かうことになった。

|青咲菖蒲《アイリス》学園。それが俺たちが入学する学園の名前だ。
「希望、大志、信念」の校訓のもと、生徒の自主性・主体性を重視し、個性を伸ばすための知識や能力の育成に力をいれているらしい。……決して進学率は高くないみたいだけどね。

「あの……染前さんは、どちらから来られたんですか?」

「|望蕾《みらい》で良いよ。俺は西の方にある朝霧市の田舎からかな。最近引っ越してきたばかりで花舞市にはまだ慣れてないけど、これから少しずつ探検していこうかなって思ってるよ。」

「そうなんですね。私はここが地元だからそう思うだけかもしれませんが、結構良い所だと思いますよ♪」

「へぇ~、楽しみだな。」

校門

 校門が近づくにつれて、賑やかな声や音が耳に飛び込んでくる。何人かのこわモテな大人たちが忙しなく荷物を運んでおり、大型トラックから次々と運び出される段ボールや機材が校舎に搬入されていく。

体育館の入学式会場を整える準備なのだろう。その光景を眺めていると、これから始まる新しい生活への実感が胸に広がっていく。

 ……あの人たち学校の関係者なのか?黒スーツや黒いサングラスの人達も混ざっているけど?
 帽子を深くかぶっていて顔はよく見えないが、アルバイトっぽい女の子も少しヤンキーっぽいし……

「すごい人もいるんだな……」

 校舎が見えてきた頃、下駄箱付近で見覚えのある顔が手を振っているのに気づいた。

「お~い、後輩いく~ん。あら~♪澄玲ちゃんも一緒なのね~」

 |秋津 桃《あきつ もも》だ。以前、バイト先で知り合った年上の知人。澄玲も同時に小さく「あ、桃さん。」と驚いている。どうやら彼女も桃先輩のことを知っているらしい。

「なんで桃先輩がここに?」

「新入生の誘導スタッフをやらせてもらっているのよ」

「それにしても、入学早々カップル成立?若いっていいわね~」

「「そんなんじゃないです!」」

 二人して照れながら否定する。それを見た桃先輩は楽しそうに笑っている。

 桃先輩は俺たちに新入生用の花バッジを渡し、教室の場所を教えてくれた。
 澄玲と俺はお礼を言い、案内された教室へ向かって歩き出す。

「そういえば、澄玲ちゃんはどのクラスになったんだ?俺は1-Aだけど」

「あっ!私も一緒です。|望蕾《みらい》さんも同じクラスなんですね♪何だか安心しました」

「俺も安心したよ。せっかく知り合いになったんだし」

そうこう話をしていると、教室の扉の前に辿り着いた。なんだか緊張するなぁ……

「澄玲ちゃん。改めてだけど、今後ともよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

そう言い合いながら、俺たちは教室の扉を開いた――

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